星崎レンスターズ [神慮の機械外郭]

サークル「神慮の機械」装丁人兼雑文係・10年来の同人二次小説屋の星崎連維が共和国の下僕として作品や同人話をしてます。なかみはようかん。

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【蓮ノ空舞台巡礼】加賀友禅こらぼ・吉祥瑠璃文に見た「愛と解像度の凄み」

2024年4月。蓮ノ空の「加賀友禅こらぼ」を追って金沢の地で出会った衣装デザインに単なる新規イラスト以上の大きな衝撃と感動を得たので旅の記録と共にここに記します。

特に今回の加賀友禅衣装はイラスト画像やグッズ等の解像度で見るだけでは味わい切れない、現地の大型スタンディや加賀友禅会館でのデザイン原画を拝むことで初めて堪能し切れるものではないかと思わされました。

一人でも多くの方が実際に金沢と加賀友禅会館を訪れてこの体験を共有できますよう。

www.lovelive-anime.jp


※こちらはnote側に書いたものと同一内容です
note.com

「言うてコラボって絵柄増えるだけでしょ」

ところで蓮ノ空のこと好き好きクラブのみなさん、今回の加賀友禅に限らず「コラボ」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?

グッズの絵柄が1つ増えるのでアクスタや缶バッチを買いに行く。

結局のところ言ってしまえばコラボテーマに沿った可愛いイラストが1人1枚増える、各キャラに似合った特徴がありながら統一性もあって並べると映えて嬉しい、またグッズに使う出費が増える、大行列で即完売させるぐらいなら受注生産して、そんな繰り返される定番イベントの一つという程度の認識ではないでしょうか?

私自身、当初今回の加賀友禅こらぼも率直に言えばそれぐらいの認識でした。蓮ノ空歌留多カードとして先行して実装された時もその絵柄と添えられた俳句やで金沢の伝統と蓮ノ空を結びつける素敵なデザインだなとは思ったものの、特にそれ以上の思い入れはなかった記憶があります。

蓮ノ空歌留多シリーズはまず新年の俳句の方に意識が行った方も多いのでは

今振り返ればウカツにも程があります。この歌留多シリーズの特訓前イラストが全て金沢に実在する場所を描いたものであったことの意味が、後に現地訪問をしてありありと立ち上がってきたのです。

また私は蓮ノ空に出会う以前より金沢は好きな土地で何度か訪れておりその歴史や文化にも思い入れがある方だと思うのですが、とは言え当方着物を着る機会が女性以上に少ない男性なこともあり、加賀友禅に興味があったかと言われればNoと言わざるを得ません。今回蓮ノ空をきっかけに触れられる方の多くも似たようなものではないでしょうか。

一路金沢へ、そして花帆から受ける最初の衝撃

とは言え、加賀友禅こらぼは久しぶりのスタンプラリー。前回が灼熱35℃の異常気象な盛夏のど真ん中で正直のんびり散策どころではなかったこともあり(金沢城公園を西日の当たる鼠多門側から上がって行こうとしたら死を感じて一度撤退したほどw)季節のよい春の開催は素直にありがたく、また年初にコラボ延期にもなった能登半島地震以後、お世話になった金沢の地、ひいては能登に少しでもお金を落とせる機会を探してもいたので渡りに船と訪問を決めたのです。

加えてSNSでもすでに「デザイナーさんのコンセプト説明がすごい(特に綴理)」という話が流れており、自分の中でも期待は十分に高まっていました。

小松以遠開通後初。終点じゃないのでうっかり乗り過ごさないように


さてご存じの通り、金沢を巡礼する蓮の(中略)みなさんは金沢駅に降り立ったらまず蓮の民にとって乳と蜜が流れる約束の地、金沢フォーラスは蓮ノ空タイアップショップ改め金沢ゲーマーズに真っ先に訪れるのが通例となっております。駅から近いですしね。そういえば一周年おめでとうございます。時の経つのが早く感じられる蓮ノ空の象徴の一つでもありますね!


金沢ゲーマーズの充実した蓮ノ空アイテム先行販売ラインナップに圧倒されつつ、ここに比べれば本来錚々たる秋葉・お台場・原宿もカスや(関東在住民調べ)などと両手を合わせながら買い物に勤しむ他、今回の加賀友禅こらぼスタンプラリーの起点もまたこの場所。自分もまずはスタンプラリー台紙を受け取り、花帆ちゃんのスタンディを拝みに来たわけです。

で。正面入り口に設置されたこの振り袖姿の花帆が目に入った時、あれ?と違和感を覚えて、そして気づいたんですよ。

「ぜ──」「ぜ?」「ぜ・ん・ぜ・ん、ちがーーーーう!!!」

着物であるが故に等身大に近いことには意味がある

もちろんいい意味で、です。

今回の衣装に限らず、ディテールが多い衣装はゲーム中のカードイラストやコラボの告知画像、アクスタ程度のサイズでは味わい切れない部分があるのは変わりません。

しかしこれはそもそもが着物、それもご存じの通り本物の加賀友禅のデザイナーさん達が実際に線を引いて作り上げた代物です。後にデザインコメントなどを読むと小さなイラストや3頭身アイコンでも映えるよう考えていただいていることが分かりますが、それでも本質は着物として等身大に仕立てられたときに映えるデザインなわけです。

例えばこの花帆ちゃん。
イラストで見るとパッと全身が一気に目に入ってしまい何となく「花柄かわいいよ……フラワー……」ぐらいで終わってしまうのですが、等身大で見るとこのポージングも相まって真っ先に袖口の大きな花の意匠が目に入ります。それも着物と聞いて何となくイメージする和風の梅柄や牡丹などではない硬質の多弁が目を引き、後にこれは花帆の象徴であるラナンキュラスとわかります。

袖口から入った次はオタクのサガとして花帆の魅力的なお顔に目を向けると、当然大きく鮮やかな髪飾りに目が行きます。イエスフラワー。が、その視線の途中で引っかかった何かに目を戻すと、古典柄の市松模様のポーチの中に花帆のウサギに加えて愛する梢センパイの蓄音機アイコンが。このサイズでなければ絶対に気づきませんし、ちょっと事前チェックしてこられた方なら「小物がポーチなのは花帆と慈だけど、ひょっとして見せてないだけで梢もお揃いのを持っている……?」などと早速想像が膨らみます。

そしてその流れで目を落とすと帯飾りにこれまた可愛いウサギと月の帯留めが見つかり「あらあら梢にも月から素敵なお嫁さんが来てくれるのね」と乙宗母もニッコリ感嘆(乙宗梢調べ)する仕掛けの視線誘導が成立しているわけです。

細部に神宿る、のみならず全身を一目では把握できないことで視線誘導効果が発生する

これだけでも十分はるばる金沢まで来た甲斐があったなー、とこの時点で十分満足してたのです。

またもウカツにも程がある!(続きます)

加賀友禅会館:デザイン画とコンセプト解説から感じた「愛」

さてさて、こんな等身大スタンディが一堂に会していて噂のコンセプト説明も読めるぞと、楽しみではありつつ軽い気持ちでやって参りました加賀友禅会館

前回訪問時もせーはすの加賀友禅染め回以後だったものの、その頃はアズールレーンさんのノボリしか無く寂しい思いをしましたが今回は表にも堂々我らが蓮ノ空のポスターが。

前回はここで「綴理……髪型変わったね……」などのボケを実行
一堂に会した等身大スタンディと印刷版解説。これぐらいかなと思ってたら……

6人全員の衣装を横並びで楽しみ、SDキャラ入りの印刷版の解説を呼んで、さて印刷版より中身が濃いとSNSで噂になっていた手書き版資料(コピー)をまずは端の瑠璃乃から読んでみますかね、と開いたら──

すごい……これ、瑠璃乃に送られた「愛」じゃん……!

振袖衣装「吉祥瑠璃文」に見る「大切に愛されてきた大沢瑠璃乃」

あの時の衝撃を一言で表すと、陳腐ながらも「感動」でした。等身大スタンディの情報量だけでは得られなかったデザイン画の精緻な書き込み、コンセプトシートに書かれたその一つ一つの描き込みへの想い。

これまた陳腐な表現ながら、そこに感じたのは「ご両親から瑠璃乃に贈られた愛情と願い」のようなものであり、ルリ様のオタクである自分としてはオタク的誇張抜きに胸に熱くこみ上げてくるものがありました。

菊田宏幸氏制作 瑠璃乃衣装「吉祥瑠璃文」
  • 小柄な瑠璃乃の身体に映える願いを込めた大輪の花々
  • 釣り好きを示す流水や泳ぐ魚などを織り込んだ、いわば「瑠璃乃好み」
  • 両袖にめぐちゃんを表す藤島の「藤」
  • 扇で瑠璃乃の勢いを示しつつ、これだけ華やかに吉祥文様を詰め込んでも派手にはしない美しさ

思えば大沢瑠璃乃は能登の生まれ。子供の頃の慈とのエピソードや服の話、カリフォルニア留学に蓮ノ空編入を考えてもそこそこ良いトコのお嬢さまでしょう。

にもかかわらず、ぶっちゃけお嬢さまらしからぬ方向に元気よく育ち、釣りやキャンプなどソロ活も大好きな瑠璃乃。でもそんな彼女の「今」をきっとご両親は「あるがまま」に受け入れ、祝福し、スクールアイドルカラーの桜色を基調に「瑠璃乃好み」として織り込み、まだまだ小柄な彼女がなお一層花咲いて欲しいと大輪の花を添えてこの一着を注文されたのではないか。振袖に祝福と願いをもって込められた親心──そんな背景がありありと浮かんでくるようです。

この言葉とデザイン画、そして結実したスタンディが融合して生まれる極上の「キャラクター表現」

さやかの「氷解く」は是非背中も見たかった……!

瑠璃乃衣装に次いで痺れたのはさやかの「氷解く(こおりとく)」です。

両手を傘の下に揃えたポーズなので少しわかりづらいのですが、デザイン画をみればわかる通りさやか衣装の基調となっているのは表も裏も全身を大きく流れる流水紋

柿本結一氏制作 さやか衣装「氷解く」

元々自分はよしながふみ「大奥」の影響もあって身頃に大きく流水紋という意匠が大変好きなのですが、こうして小さな模様にせず大きく一筋に描くことでさやかの全身を貫く大きなうねり、一本の大河=水色のきらめきを通じて大きく変化した彼女の運命のような印象を受けます。

そこで解説を読んでみればなんとこの流水紋は

  • さやかのスケートの軌跡=駆け抜けてきた距離であり
  • 綴理との出会いによる雪解けの表現であり
  • そこを流れる「ボクの赤」で縁取られた花は一輪咲きのバラ=夕霧綴理

デザイナーさん、村野さやか理解が深すぎる……!

流水紋の清涼にして大きなうねり、歩んできた氷上の軌跡、そして綴理と出会って解けた氷にきらめく水色のいわばトリプルミーニング。これは身頃を大きく見えるポーズや是非背面も拝みたかった一着ですわ!

綴理のバラに加えてさやかの生まれを金沢を示す梅の花(前田家家紋も梅だったりする)

こずめぐ一考:和の慈と洋の梢

この調子で6人紹介していると誌面が尽きてしまう(意訳:締切が近い)のですが、梢と慈のコントラストについてはどうしても触れざるを得ません。

志々目哲也氏制作 梢衣装「秘めた想い。」/清水恵子氏制作 慈衣装「ボロニアの咲く頃」


慈に描かれた花はボロニア。他の5人と同じよう春にまた花咲いて欲しいという願いを込めた意匠にも唸りましたが、驚いたのはデザイナーさんの想いです。

  • 何となく昭和な感じの慈さん
  • 可愛くなり過ぎずにしたい
  • ボロニアの花ことばのように芳しい香りでみんなを和ませて欲しい

一見カワイイを押し出してもおかしくない慈を前に、人と人の間を取り持つ慈の本質と「和」が似合うテイストを見抜いてたこの方、何者ですか!!

一方でそれこそ和装が似合い、いかにも日本美人な仕立てになってもおかしくない乙宗梢の方はパリスグリーン(毒のアレですw)を思わせる鮮やかな緑にアールヌーヴォー調の百合とツタ模様。兼六園級の乙宗邸を思わせる西洋的なデザインで攻めてきているのです。

立てば芍薬の梢に、その音楽的背景や実家の素養を加えた欧風のデザインを。
可愛いとハッピー至上主義な慈に、優しい薄紫の和の雰囲気を。

こずめぐ理解が深すぎる……!(定期)


噂の綴理は現地以前と印象は変わらないけど……

今回の加賀友禅こらぼ、蓮ノ空歌留多を見た時に一番インパクトがあったのがこの綴理です。

まず目を引く赤と黒で左右半身ずつ色が違う「片身替わり」。西洋的な思考だとかなりモダンなデザインに見えますが、これ調べてみるとなんと安土桃山辺りから武士に流行った意匠なのだとか。流石綴理、かぶいてやがる!

山田武志氏制作 綴理衣装「星ノ空 銀ノ糸」

また蜘蛛の巣の意匠が吉祥ということはたまたま知っていました。蜘蛛の巣が表す「待ち人来る」の意味合いに重ねられた星々は綴理がよく口にする「きらめき」、つまりこれは「待ち人来りて星をつかむ」さやかとの出会いかな……などと想いを巡らせていたものです。

どっこい三島の「美しい星」という超骨太のコンセプトが込められてました。

しかし逆に言えば意匠があまりに大胆かつ見事だったため、現地でそれほど印象が変わらなかったのも確かです。

というより、これこそ是非「本物」の加賀友禅仕立てで見たかった……!

と思っていたら、なんとデザイナーさんご本人が

自腹で作るんで運営の人、実際に作る許可出して

山田武志 takeshi yamada | 友禅会館並びに県内各地で始まりました 「ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」のイ�... | Instagram


蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ運営さま、お願いします!



加賀友禅という「現物」を見て

実際、慈スタンディのあった金沢中央観光案内所には今回の衣装とは直接関係はないのですが加賀友禅の見事な暖簾が飾られていました。

高田克也氏 作「四季草花瑞兆」@金沢中央観光案内所
展示されていた本物の加賀友禅は現代のキャラクターイラストデザインとまったく違和感がない


この鮮やかさ。繊細なグラデーション。

そして加賀友禅会館で展示を見てお話を聞かせていただきましたが、やはり京友禅などとは違い最初から最後まで一人で作成されるがゆえの加賀友禅の作家性はこのようなコラボで意匠を込めるのに実に向いているのだなと改めて感じさせられたのです。

最初にデザインを発注された際はまだ蓮のストーリー展開も序盤だった頃といいます。しかし、元より依頼者の希望とそれを表現する自らの理想の形を追い求めるのが「作家性」というもの。加賀友禅の制作者として培われた深掘り能力を本来フィクションである蓮の子たちに全力で発揮いただいた、そこに限りない感謝を捧げると共に、

なるほど、これは加賀友禅のような「場」でなければ成し得ぬコラボだ……!

と深く深く納得したのです。完璧な「わからせ」の発生です。

また現物といえば実際、加賀友禅会館でもう一つコラボされていたアズールレーンさんは本物の加賀友禅を合わせて仕立てられていました。お金があるコンテンツ凄いな!

先のデザイナーさんのコメントで「振り袖なんで実際制作して着るとなるとこのくらい柄が無いと寂しい」ともあったように、また私が冒頭金沢フォーラスで花帆ちゃんの等身大スタンディを一目見た時の衝撃にもあったように、

やはり着物、振袖というのは等身大で、そして現物をみて初めて伝わるものがある。

アズレンさんの現物を見てもやはりそう感じる面がかなり強くありました。

蓮ノ空でももし仕立てられた一枚があれば、金沢、石川という県境を超えて全国各地のイベントなどで展示する、あるいはキャストの方に実際に着ていただいて生きた文化としての加賀友禅を蓮ノ空のこと好き好きクラブのみなさんにお披露目することもできたのではないでしょうか。

是非是非、今後の展開として検討していただきたいところです。


最後に:聖地巡礼・金沢の地が選ばれた理由

舞台巡礼先として、金沢は本当に素敵な街です。

バーチャルリアリティの"Virtual"英語本来の意味は仮想ではなく「実質」。

蓮ノ空は実質現実(バーチャル・リアル)のスクールアイドルたちを描き出すことで、金沢の街を聖地巡礼先というよりは現地訪問先にしていると常々考えていましたが、今回の加賀友禅こらぼ巡りで本物の加賀友禅作家さんが蓮ノ空の彼女たちに想いを込めた様を目の当たりにして、改めてそのことを実感したように思います。

彼女たちはこの場所で、確かに「生きている」。

蓮ノ空のキャッチフレーズにもあるように、金沢は「雅やかな伝統が残る古都」

それは何となく背景として存在しているというより、蓮ノ空女学院というスクールアイドルの伝統を持つ学校を描く上での必須要件だったのかなという感覚があります。

それは例えば、金沢のお茶屋文化とスクールアイドル活動後援の類似性などもよく挙げられます。地元の人、と語られていた北陸経済界の「旦那衆」なくして徳光海岸に花火が打ち上ったりはしないでしょうw

また学問の都としての伝統、石川四高を擁していた金沢。

note.com


旧制高等学校の寮歌と蓮ノ空3ユニットの繋がりを考察された方もいらっしゃいましたし、また実際四高の生徒たちは「やんちゃ」でも知られていたらしく、その気風はどこか50年前に芸学部でアイドル活動を認めていた蓮ノ空女学院に通じるものがあるようにも思います。1970年代当時、最初のアイドル興隆期とは言えまだまだ「いかがわしい、教育によくないもの」とされていた時代に、ですよ!

そして今回取り上げられた加賀友禅、次いで第104期でスポットライトが当たった加賀繍。いずれもシナリオの都合で取ってつけられたものというより、そのようなアイドル衣装文化にも通じる美と作家性の伝統があればこそ、金沢の地は蓮ノ空の舞台として選ばれた、そこに蓮ノ空女学院という学校を置いて彼女たちを「生きて呼吸させる」場所として使わせていただくことができたのではないかと思うのです。

「咲く花は 百生にその色変わらねど 染める心に同じもの無く(連維)」

蓮ノ空と金沢の幸福な関係が、これからも益々発展してゆきますように。

加賀友禅こらぼが示したガチの愛と解像度を紹介することで、その一助となれますように。イエス、フラワー!(締めの挨拶)

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